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2015年03月30日(月) 
元日経新聞デスクの坪田知己さんは、数年前から全国各地で実施されている「共感される文章講座」で新聞記者として磨いた腕前と哲学で、数多くの人たちを指導しておられます。その坪田さんから「みんなで自費出版」プロジェクトにいっちょかみしませんかとお誘いがあり、一も二もなく応諾、「つながり」をテーマとした1,800字の原稿を書き下ろしてみました。

これは文書講座の一環でもあり、きっと「真っ赤っかのぼっこぼこ」になると覚悟はしていますが、自分の文書能力をアップさせるチャンスになると期待でわくわくです。添削前と添削後で、どんなに変身するか、とても楽しみです。「自費出版」ですから、そう遠くない将来「本」になるのも嬉しいですね。


つながりをリレーされるボトル
和崎 宏

 「わさきくん、元気か♪」
受話器の向こうからしわがれた懐かしいハスキーボイスが響いた。水田洋道氏(68)は、姫路市中心市街地で手広く不動産業を営む事業家であり、青年会議所(JC)の理事長や商工会議所の常議員を歴任した地元の名士だ。私にとっては青年会議所の大先輩であり、まちづくりの「いろは」を指南してくれた師匠。若気の至りでいつも暴走気味のわたしは叱られてばかりの怖い存在だったが、青年会議所を四十歳で卒業したのちも、ずっと弟のように可愛がってくれている頼れる兄貴だ。

 食べることと飲むことが大好きだった先輩は、趣味が高じて、それまで姫路の街中にはなかった、フレンチやイタリアンの本格的なレストランを開き、奥さんと二人三脚で経営してきた。経営は順風満帆で、大切な人との特別な日の食事には欠かせないお店だったが、数年前に突然の病に倒れることとなる。若い頃からの不摂生が祟ったのだろう、糖尿病で長い闘病生活を余儀なくされたのだ。最近になって、やっと事務所に復帰したと聞いて、ほっとしていたところにかかってきた電話だった。

 生死の境からは無事に帰還し、なんとか退院はできたものの、当然のことながら生きがいに近かった飲酒は固く禁止され、美食も大幅に制限される生活が続いていた。体力もずいぶん衰えて、すべての公職から身を引いて、まるで仙人のような療養生活を送っていた。

 水田氏の趣味のひとつに、ヴィンテージワインの収集があった。名品や年代物の意味で使われている「ヴィンテージ」は、もともと同一年に一定の区域から収穫されたぶどうのみを使って醸造されるワインのこと。国内外に出掛けた際に出会った、誕生日や記念日にちなんだボトルを、こつこつと購入しては経営するレストランのワインセラーに保管してきた。そのボトル一本一本に、愛情と思い出がこもっている。

 種類にもよるが、未開栓のワインは、光・振動・温度・湿度などに気をつけながら寝かせて保存すると、熟成が進み美味しくなると言われている。この間にボトルから水分やアルコール分が蒸発して目減りした分は、「天使の分け前」と呼ばれ熟成の度合いを見分ける目安とされている。だから、ぶどうの当たり年に特定の産地で造られ、長い時間をかけて熟成されたワインは、ヴィンテージとしての価値があるのだ。

 中でも、ボトリティス・シネレアという貴腐菌がついた葡萄から作ったワインは、余分な水分が蒸発して糖度が上がり、独特の香りを持つ非常に甘いワインとなる。これらは「貴腐ワイン」と呼ばれ、食後酒・デザートワインとして珍重されている。水田氏のコレクションの中にも、代表的な貴腐ワインが含まれていた。

 シャトー・ディケム(Château d'Yquem)は、フランスのアキテーヌ地方にある世界最高の極甘口白ワイン生産者で、数百年の歴史を誇るボルドーでも最も古いシャトーの一つ。よいヴィンテージのものは熟成に20年以上かかるとされ、100年以上経っても、その輝きは失われないといわれている。1855年パリの万国博覧会では、これを凌ぐものはない最高級品ということで、唯一白ワイン部門「特別1級」に指定されている。1921年のシャトー・ディケムは、世界に100本とない稀少なボトルだった。

 「お金やないんや。このボトルを大切にしてくれる人に譲ることができたら。」
いつか最愛の妻と開栓しようと、20年以上前にフランス旅行で手に入れた貴重なボトルだが、病のためにいまではこれも叶わぬ夢となった。ワインブローカーに委ねたら、300万円と言われる評価額の半値以下に叩かれた上に、どんなオーナーの手に渡るかもわからない。できれば、「思い」が解ってくれる相手に直接譲りたい。ネットを使って告知できないかとの相談だった。

 しかし、ネット社会の知識はある程度持ち合わせていても、ワインのことはもちろん、コレクターの知り合いもなく、話しは聞いたがどうしたものかとしばし思案に暮れた。ネットオークションなどを使えば、手間もかからず便利だが、相手が信頼できる保証はないし、第一に水田氏の気持ちを継いでくれるかどうか解らない。

 困り果てていたところに、JC時代の仲間が助け船を出してくれた。地域は違うがコレクターの友人がいるので、メールで連絡しようと。信頼関係にあるJCというリアルなつながりを、バーチャルな道具であるネットが補完して、心ある人にボトルがリレーされる日も、近く訪れることになるような予感がする。

(了)

閲覧数1,625 カテゴリ日記 コメント1 投稿日時2015/03/30 13:42
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