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2014年07月05日(土) 
第十話「すでにそこにある未来」

田中隆祐のテーブルは、ブレスト段階から具体的な事例を引き出した議論が沸騰していた。ひとつのグループは、お城の下でイタリアンレストランを開くオーナーシェフの宮越誠(44)、ボランティアで地域SNSの運営管理を担う岡本早苗(52)、広告代理店志望の大学生・田中聖也(19)の3人だった。岡本の「ランチパスポート(ランパス)って利用したことありますか?」という発言で火ぶたが下りた。「参加店のパスポートのついた本を1,000円くらいで買って、その中に掲載されているメニューがワンコイン500円で食べられるんです。わたしのご近所では3冊目で90店舗くらいが参加、同じお店で3回パスポートが使えるから、全部行くと270食分。そんなに食べられない(笑)。お店はランチメニューを本に掲載する費用はかからず提供するだけ。PRを考える店にはリスクが少なく有効な宣伝方法だし、料理が美味しければリピートするきっかけにもなります。女性にとっては、デザートなどオプションの追加メニューが魅力だったりします」。

もともとこの分野は、リクルートの「ホットペッパー」など大手のフリー情報誌が永らくビジネスモデルを構築してきた。掲載料を店舗から徴収し、割安な商品情報を提供する雑誌を制作、書店やターミナルに置いて利用者には無料で配布する。一世を風靡した仕組みであったが、参加店舗の偏在や費用対効果の減衰から最近は以前と比べると掲載量が減少傾向になっており、それに代わって新しいクーポンモデルが生まれてきた。全国各地で拡大する「ランパス」は、中でも一番の成長株だと注目されている。参加店には「リスクが少ない」「リピートやサイドメニューの売り上げが期待できる」というメリットがあり「ワンコイン」「複数回(3回)利用できる」「いろんな店にいける」という魅力が利用者側にあるのがポイントだ。中でも大手フリー情報誌がカバーできなかった地方の店舗の情報が提供されているというが強みとなっている。

熱く語る岡本に、宮越が静かに問題提起を始めた。「ワンコインで利用者が満足するメニューを提供するというのは、店舗にとっては相当負担が大きいですよ。まちなかバルの時には、詳しい原価計算をせずにそれくらいで提供しているけど、普段からと言われるとどこの店もきっとクオリティを確保できないだろうな。地域の飲食店は牛丼屋じゃないんだから。とくに「ランチ」という利益率の低い繁忙時に組み込むというところに無理がある。一般的にランチ客のサイドメニューやドリンクのオーダーは低調なので、他で利益を見込むことも難しい。そして、ランチとディナーでは基本的に客層が違うから、夜に流れてくれるという期待も小さいですよ」。オーナーシェフらしい分析だった。

実際に、クーポン利用者のリピート率は、値引率が大きいほど低くなるという傾向がある。この理由は「一度甘い汁(割引)を知ると、次からもそれしか使わなくなる」ので、結局クーポンの中からしかお店を選択しなくなるからだ。客層も店舗側が求める「いいお客さん」には遠く、期待したその他メニューの売り上げも伸びないので、良質で良心的な店舗ほど既存顧客との差別化が難しくて、再びクーポンに参加しなくなっているのが現実だ。聖也がここで二人の間に入った。「忙しいランチタイムを外してクーポンを発行できたらいいんですよね。宮越さんのレストランでも、アイドルタイムやディナータイムって余裕があるんでしょう。それぞれの利用者のニーズに向けて商品企画ができれば、クーポンもまんざら悪くないのではありませんか?」。

聖也は続けた。「ランパスモデルは店舗側も運営側も利益構造のバランスに少し無理があるような気がします。利益が出なければ、事業は続けられませんからね。店舗側のリスク軽減のために紙媒体を有料販売するのではなく、媒体をスマホのアプリにすればコストをかけてわざわざ印刷する必要はありません。クーポン情報をオープンデータにしたら、誰かが違う視点で面白い活用方法を考えて相乗効果を生み出す仕組みを提供することも期待できます。ひょっとすると紙じゃないと伝わらないという固定観念があるなら、時代に大きく乗り遅れてしまうでしょうね。これからは情報を持ち運ぶ時代です」。聖也の説得力のある内容に、みなはただ頷きながら聴き入っていた。

「あと感じるのは、値引き率が高い方がいいとか、価格は安い方がいいという人ばかりではないということ。ファストフードに慣れさせられた若い層は、お財布の中身も余裕があるわけではないので、味よりも量、サービスよりもコストという傾向があるでしょうが、特定のお店に定着するという意識が低く、浮動票のように流れ漂っています。この層を組み込むのはビジネスとしてはあまり得策ではないとおもいます。コストよりクオリティ、どこでもじゃなくここだけの時間を求めている人も少なくありません。だったら、利用者層を絞り込んで、本当に信頼できるレベルの高い地元のお店だけを、利用客目線で情報発信できれば、まったく異なるビジネスモデルになりそうな気がします」。聖也のアイデアは、既存のシステムではできなかったポイントをズバリとついていた。

つづく

この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑)

閲覧数811 カテゴリ日記 投稿日時2014/07/05 06:43
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和崎宏さん
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